実は、、、新車と修理屋の使う塗料は同じ物ではありません!
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完璧主義者の方には大変残念なお知らせとなります。実は新車に使う塗料と、自動車鈑金塗装業者の補修用塗料は同じものではありません。
どう言うことだ?綺麗に直ってるじゃ無いか。全くわからないじゃ無いか!とお怒りになっていただいても、私たちはこんなに嬉しいお怒りはないのです。
じゃあさ、「一緒の塗料を使えばいいじゃん!」そのご意見はごもっともですよね。
でもちゃんとふに落ちる理由があるんです。
これからお話する塗料の違いは一番重要な主に表面のクリヤー塗料のお話です。もちろんベースの塗料も違いますが…
新車の塗料は?
皆さん。東海地方に住む方なら学校の社会見学で子供の頃自動車製造工場に行って完璧な流れ作業を見たことはないでしょうか?
自動車の製造工場ではベルトコンベア式のライン作業となり塗装においてもロボットによる流れ作業した後すぐに乾燥させないと次の工程に移れません。
すぐに触れるまで乾燥させるには高熱で硬化させる必要があります。これが『焼き付け塗装』です。
焼き付け塗装は温度が150度前後で20〜30分の間に熱によって塗料の反応が進み分子レベルで架橋(結合)しあう『熱重合型』塗料を使っています。調べたところ『熱重合』とは触媒を使用せず、熱により化学反応させるとのことでしたので、つまりは硬化剤は使っていないと言うことだと思います。←違ってたらごめんなさい。
白色の車なら熱硬化ポリエステル樹脂 それ以外は大体熱硬化アクリル樹脂塗料(アクリルメラミン)を使っています。
すぐ乾くので次の工程に移りやすいのとすぐ乾くのでホコリが付きにくいことがメリットです。
補修用塗料は?
対して補修用の塗料は少し塗料の名前が違います。
その名も『アクリルウレタン。』標準的な本格ウレタンクリア塗料(硬化剤の配合比4:1)の場合です。
メラミンではなくウレタンです。これは熱をかけずに自然乾燥させる塗料です。熱重合ではなく重合反応となります。アクリルウレタンは膜厚が稼げて弾力性があり、耐久性、艶感においてはむしろメラミンよりもいいくらい(塗料メーカー談)との事でした。
メリットばかりでなく自然乾燥塗料なので乾燥までに時間がかかり、メーカーよりも完璧ではない我々の塗装ブースも相まってホコリはつきやすくなります。また、この塗料を強制乾燥させようと遠赤外線を近づけすぎると泡を噴きます。
こちらは熱では無く、硬化剤を添加することで化学変化で分子を結合させる『重合型』ですので、硬化の仕組みが違うと言うことになります。ただし、熱を加えると重合型でも硬化は促進されます。
結局なんで使い分けてるの?
メーカーの場合は大規模設備で高温の環境が用意でき、とにかく早く仕上げる事に重点をおくとアクリルメラミンは大きなメリットがあります。
鈑金塗装屋は150度で焼き上げる塗装ブースはとても用意できませんし、用意出来たとしても、そもそも補修する車には生産ラインのメーカーの車とは違い、すでにガラスやゴム、プラスチックのミラー、バンパー、配線類が付いているので150度の焼き付け塗装をするならそれら全て取り外す事になるので、いかにこだわりの鈑金塗装屋といえども毎度そこまでしては修理代の採算がとれません。メーカーの塗料は導入不可能なのです。
焼き付けブース完備!の鈑金屋さんしってるよ!
でも、ネットで検索すると焼き付けブース完備を謳っている所があります。これはどう言う事かと言うと、塗装ブースの上にバーナーなどの熱源を設置して、温風を塗装ブースの中に送り込む事で補修塗料の!『アクリルウレタン』の乾燥を早める設備がある。という事です。燃料は灯油、都市ガス、プロパンガスなどがあり、最大でも塗料が泡噴かない80度ほどの熱風を送る設備となり、メーカーの焼き付けのイメージとは異なると思います。
メーカーとは違う焼き付けブースはわかったけど、じゃあどんなメリットがあるの?とお客さんに聞かれたとき、焼き付けブースは早く乾くからホコリが付きにくい。早く乾くから早く納車できますと説明されると思います。
ただこの焼き付けブースが本当に役に立つのは主に冬場になります。夏場なら気温が高過ぎて何もしなくても塗装後30分もすれば触れる状態まで乾きます。冬でも当社だと業務用エアコンで空調管理しているので80度の温度は出せないまでも温かい温度は作れるので不都合なく乾かせます。
当然寒い冬場に広いブースを高い温度で保つには燃料をガンガン燃やす必要があります。ガンガン燃やした灯油代は誰が払うのかとなった場合、台数をこなして利益でカバーするしかなく、塗装ブース内で研磨出来るまでしっかり乾燥させて時間が短縮出来たとしても、自然乾燥なら触れる状態の30分後程したら次の車両に入れ換えて次の塗装に取り掛かることで、複数の車の作業工程を、同時進行、並列で運用すれば時間のハンデはありませんので、おそらく夏場の気温である30度、高くても40度以上では、すでに十分早い乾燥速度と燃料代の面を考えて使用してはいないでしょう。意味合い的には年中同じ気温を維持できるから、いつでも同じ台数の鈑金塗装がこなせるよと言う認識でいいと思います。『焼き付けブース』だからいいとか悪いとかは以上の理由からあまり参考にはならないと思います。
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最近流行りの水性塗料対応のお店は?
メーカーの新車の塗料でも環境対応のため低VOC(低揮発性塗料)塗料として水性塗料を使った車が増えている傾向があります。それに倣って補修塗料業界も塗料の営業マンが水性塗料を売り込みにやってきます。『これからは水性塗料が普及していきます!是非!ぜひ!』と。
私もこの水性塗料はとても気にしていて、いずれは導入したいと考えています。ですが今はその時期ではありません。なぜか、
水性塗料が使われているのは実は今のところベースだけ。
今現在水性塗料として発売しているのは真ん中の層である色の部分、ベースと言われているところです。その上のクリヤー層、膜厚の厚い部分は変わらずアクリルウレタン塗料です。水性のクリヤーもあるにはあるようですが、実用にはまだ耐えられないのが本当のところのようです。つまり水性だからと言ってもあまり環境には貢献ができてはいないのです。少なくともこのクリヤー部分がいい製品が開発されて、普及のスケールメリットで価格がもう少しこなれてきてからが導入の頃合いかなと思います。塗料としての性能、揮発(乾燥)の速さではやはりまだまだ開発の成熟した有機溶剤塗料には敵わないのです。